雨の日にはたまに

のどかにつづる

冬の博物館・美術館

冬のコペンハーゲンは寒く、気温はせいぜい0℃前後だけれど、風が強いため体感温度はもっと低くなる。緯度が高いため日照時間は短く、晴れた日でも明るいのは1日のうち8時間くらい。そのため、冬は外に出歩くのが億劫になってくる。ほかの人びとがどうしているかはよく知らないけれど、そんなわけで、私たちは博物館・美術館をよく利用する。

冬の休みの日、ずっと家にいても子供が退屈するけれど、寒いので、快適な夏のように長く外に出ていることもできない。そんなときには博物館や美術館に行くのが良い。コペンハーゲンにはいろいろな種類の博物館・美術館が数多くあり、年間パスと子供フレンドリーという、居住者にとって非常に魅力的なふたつの特徴がある。

 

デンマークの博物館・美術館のほとんどが年間パスを発行している。日本より物価の高い国なので元値も高めだけれど (普通のところで約1500円から、有名どころでは3000円以上まで)、年間パスは、2-3回来れば元がとれるくらいの値段に設定されている。家族やパートナーと2人分の年間パスを購入すると、ひとり分をふたつ購入するよりも安い値段で手に入ることも多い。また、年間パスを提示すれば併設のカフェやショップが10%くらい割引になる特典がついていることもしばしば。ニュースレターや年間パス会員限定のイベント情報を届けてくれるところもある。なので、気に入っている博物館・美術館であれば、年間パスを購入してしまったほうが、トータルで見て、お得な感じがする。

デンマークに来て、ある博物館・美術館をどれだけ気にいるかというのには、展示の内容だけでなく、建物や全体の雰囲気、カフェの充実度なども関与するということを理解した。こちらの博物館・美術館は建物がユニークでおもしろく、敷地や庭がゆったりして気持ちがいいことが多い。展示を見なくとも、敷地内を歩いていて満足した気分になってしまうくらいのところもあるほど。また、ほぼ必ず、きちんとしたカフェやレストランが併設されており、そこでコーヒーを飲んだり軽い食事をしたりするのもリラックスできる。(日本と比べて物価が高いので、特に食事はなかなか気軽にはいかないけれど)

子供と文化施設に行くと、退屈したり別のところで遊びたがったりで、落ち着いて展示を見られないこともしばしば (というか常に) ということになる。そんなときでも年間パスを持っていると、観られなかった部分はまた来て観ればいいやと思えて、精神衛生上とてもよろしい。

そうでなくとも、デンマーク博物学・美術館は (というよりも社会全体が) 全体的に子供にやさしい。日本だと、ほかの来館者の迷惑になるかも…という恐れから、子供と一緒に、特に美術館に行くのは躊躇してしまう。そして、おそらく、そのために子供が美術館に来る頻度は低下し、「美術館は子供を連れてくる場所ではない」という暗黙の規範が強化されて、さらに子供を連れて行きづらくなる。

デンマーク博物学・美術館にはあまりそういう雰囲気がなく、子連れの人たちをたくさん見かける。さすがに走り回る子供はいないけれど、展示室も静粛にという厳格な感じではない。そもそも、博物学・美術館の側が積極的に子供を呼び込む態度があるように思う。バリアフリーのアクセス、ベビーカー置き場、貸し出しベビーカー、多目的トイレはまあ当たり前として、カフェでも子供向けメニューをたまに目にする (ただし日本より物価が高いので子供向けと言っても…以下略)。そしてなによりもすてきなシステムだと思うのが、子供のための展示と図工室である。

 

デンマークのだいたいの博物館・美術館には、子供のための展示や図工室がある。展示だと、手に触り内部に入り込んで楽しめる、子供の好きそうなテーマのもの (ヴァイキングや動物や虫めがねや体験型のしかけなど) が、けっこうなスペースを割いて用意されていたりする。それと、もちろんレゴも (レゴはデンマーク発祥)、展示に関連するものを作ってみよう、といった感じに置いてある。こうしたスペースにあるものも展示の一部だったりして、子供たちがここで遊ぶことが、なんとなく社会教育の機会となっている。

また、子供のための図工スペースも用意されていることが多い。簡単なところでは、プリントアウトされた塗り絵 (展示に関連する絵柄) と色鉛筆が置いてある。手の込んだところでは、グルーガンを使って立体造形ができたり、絵の具を使って水彩画を描けたり、ハサミと糊でコラージュができたり。画材会社などが用具を寄付していることが多いようで、清潔でよく整備されているにも関わらず、無料で利用でき、専属の職員さんが指導してくれるところもある。そのため、こうした図工室はいつでも大人気で、家族連れでにぎわっている。子供たちは、あるいは大人も一緒になって、みんな思い思いにそれぞれ好きなものを描いたり作ったり遊んだりして、作品を持ち帰ったり置いて帰ったりしている様子を見ると、何が起きるか予測のできない混沌とした雰囲気を感じる。調和の取れて整然とした美術館のなかに、意図的に、こうした「構造化されない構造」とでも言ったようなものを配置してしまうところが、デンマークデンマークらしいところだなと感心してしまう。こうして小さい頃から美術館・博物館になじんだ子供は、大きくなってからも (もしかしたらさらにその子供をつれて) 自然と博物館・美術館に足を運ぶようになり、将来の大事な顧客となるのだろう。目先の利益に汲々とするのではなく、長期的な持続可能性がよく考えられている。

 

どんより曇った冬の休日、朝ごはんを食べてすこし家事をして、年間パスをもっている博物館に行ってそこそこに展示を見て、疲れたらカフェでお茶にして、退屈した子供を子供スペースで遊ばせるのに付き合い、館内の机や椅子が並ぶ飲食スペースでお弁当を食べて、ミュージアムショップを少し覗いて帰る頃には、子供は昼寝をしており、食材を買ったり散歩をしたりして家に着く頃には夕方前のいい時間になっているのだった。

 

以下の写真はどこかわかるでしょうか…? (多くの博物館・美術館で写真撮影が許可されているのもうれしいところ)

Louisiana Museum of Modern Art

Statens Museum for Kunst: SMK

Ordrupgaard Museum

ARKEN Museum