雨の日にはたまに

のどかにつづる

ハーバーバス

コペンハーゲンは夏。夏といえばこちらは休暇の季節。7-8月は大学から半分くらいは人がいなくなり、保育園は規模を縮小し、そのほかいろいろな業種もとにかく休みがちになる。「7月末までお休みします」「8月中旬に戻ります」みたいな張り紙をしたお店やカフェなども目立つ。研究室の同僚と話していたときには、日本ではどのくらい夏の休暇があるの?という話題になり、お盆休みに有給をくっつければ…ということで「1週間くらい」と答えたら、短いんだね……と悲しい目を向けられてしまった。

日本の夏のように湿度が高くなることはなく、気温はせいぜい上がって20℃後半。20℃後半になると人びとは「今日はsuper hotだね」などと言っている。そして夏には日が長くなり、さすがに6月頃よりは短くなりはしたけれど、朝は5時前に明るくなりはじめ、夜は22時過ぎまで外が明るい。過ごしやすい気候に加えて一日の活動時間も長くなり、人びとは真剣に休み遊ぶために浮足立つ。まぶしく輝く太陽も届かず同僚もほとんどみかけない研究室でひとりお仕事をしていると、「今日はちょっと早めに切り上げて散歩でもしてこようか…」という気にもなってくる。こちらの人たちはみな、人生を楽しむのが上手だ。

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さて、そんな夏に、してみたかったことがひとつある。それは街中のハーバーで泳ぐこと。

エコ先進国なだけあって、コペンハーゲンの河口や湾はとてもきれい。人が泳げるくらいに※1。そのようなわけで、コペンハーゲン市街中心部のウォーターフロントや、街の目と鼻の先にある湾には、人が泳いだり岸でくつろいだりできる区画「Københavns Havnebade」(英語ではバス“Bath”と呼ばれている)が4ヶ所整備されている。5月に街中のハーバー沿いを散歩していたところ、そのような区画のひとつをみつけて、もっと暖かくなったらぜひ来ようと思っていのだった。ちなみに、そのときは長袖を着るくらい肌寒かったけれど、覚悟を決めて冷たい海に飛び込もうとしている2-3人のグループがいて、幅30メートルくらいの遊泳場を端から端へと悠々と泳いでいる人が2人いた……。

 

ひとつ仕事の山が終わった翌日、天気予報で気温が上がることを確認し、ハーバー・バスに向かって出かけた。駅からすこし歩いていって、11時くらいに到着すると、水着を着た人たちがハーバー沿いのウッドデッキにたくさん寝転んでくつろいでいた。こちら岸には200人くらい、対岸には300人くらい。水鳥やアザラシが岸辺に集まって営巣している光景を想像してしまった。

Rとわたしはまっすぐに遊泳スペースに向かい、まずは様子を観察。幅30メートル奥行き10メートルくらいのスペースが岸に沿って設置されており、夏になって暑くなっただけあって、すでに6-7人がばしゃんと飛び込んだりして泳いでいる。遊泳スペースの入口には遊泳可能かを示す太陽発電式の表示があって、水が汚れていたりすると遊泳禁止になる仕組み。岸の中程にはライフガードの高い椅子があり、水上をたまにライフガードのボートが通ったりもして、安全にも配慮されている。

 

様子もつかめたので、前の人にならって服を脱ぎ、服の下に着てきた水着になって、まずは私から水に飛び込む。ばしゃんと頭の上まで水に浸かり、水面に顔を出すと、水がけっこう冷たくて気持ちが良い。この遊泳スペースは船も係留しているハーバーの中に区切られているので、けっこう深くて、水深はおそらく9 mくらい。岸の近くにはよくわからない藻が水中に生い茂っていて、あまり近寄りたくない。

そのまま30メートル先の向こう側まで往復して泳いで帰ってきた。こうしてみると水がけっこう冷たくて、もう一往復はちょっと無理かな……という感じ。ほかに泳いでいた人たちもそんな感じでわりとすぐに水からあがり、岸沿いのウッドデッキに寝そべって日光浴をしている時間のほうが圧倒的に長い。

次にRと交代してRが泳いでくることになったものの、そろりそろりと足をつけただけで「冷たすぎる!」と言っており、がんばって水に浸かっても1-2メートル行っただけで帰ってきてしまった。なんだか自分の冷たさの感覚がおかしくなってしまったのかとも思ったけれど、発掘調査で毎年訪れていた夏の礼文島の海水のほうが冷たかったように思うので、きっとそんなことはないはず。

 

そうして、わたしたちも周りの人びとにならってウッドデッキに寝そべって日光浴をする。すこし公衆トイレのような匂いがする気がするけれど、たぶん気のせいであろう。太陽は夏の光で、陽にあたっていると温かくて気持ちが良い。R曰く、これは自然のサウナではないかと。日光に当たって体を温め、熱くなってきたら冷たい水に飛び込んで体を冷やすのだ。そう言われるとたしかにそのような気がしてくる。

湿度が低いため体の水はけっこうすぐ乾いた。特筆すべきこととして、乾いたあとの体はベタつかず、海の生臭い匂いもしない。こんなに快適だったら、海に入ったあともウッドデッキで日光浴をしたりお昼ごはんを食べたりしたくなるよなあと周りを見て実感する。おそらく、海水が貧栄養なのではないか。また、バルト海は全体的に塩分濃度が低い傾向があるためか、泳いでいたときに口に入った水もそこまで塩辛くはなかった。

 

体が温まったのでタオルで体を拭いて、服を着て、ハーバーをあとにした。もうお昼を過ぎていたし、泳いでお腹も減ったので、近くのカフェに行き、道路に机と椅子が並べられた屋外の席でケーキを食べてコーヒーを飲んだ。

まぶしい日差し、冷たい水、ハーバーを取り巻く夏休みの雰囲気が想像以上に気持ち良く、別の場所にあるバスにもぜひ行かなければと思ったのだった。

 

※1 上述の文書を参考にすると以下のように書いてある。コペンハーゲンの南は工業地帯だったが、その地域を居住域に転換することを1989年に決め、1992年には海で泳ぎ魚を釣れるように浄化することを決めた。1億ユーロ以上のお金を投下して下水処理システムを改築し、2000年代になると人が泳げるようになった。しかし、海底にはまだ汚染された土が残っており、この除去計画も進められている。