雨の日にはたまに

のどかにつづる

ちくわの音

ちくわを食べている。

どうしてちくわなんか食べているかというと、旅先にいて、満足な調理環境を用意できていないからなのだった。つい先日、滞在先の近くにあるスーパーに行くと、一口サイズに切られたちくわにわさび風味のマヨネーズがついたものが、半額になって100円くらいで売られていた。晩ごはんの献立に迷っていた私は、これ幸いとばかりに、そのちくわを買い物かごに放り込んだ。

野菜で簡単なスープを作って、それとは別に、そのちくわをお皿にあけて、マヨネーズをむにむにっとかけて、おかずとした。そうして驚いたのだけれど、思っていた以上にちくわがおいしかったのだった。表面がちょっとぱりぱりしていて香ばしく、練り物のぼんやりした味に、噛みごたえがあってなんだか楽しい。そうして、マヨネーズの脂っけとほんのりしたわさびが、ちくわの風味に深みを与えている。

誰かに作ってあげるわけでもなくて、自分で作ってその場で食べきってしまうのだから、なんだか手抜きっぽく見えたって構いはしない。お皿にあけて、ちょっとした味やアクセントをつけるだけで、安くてヘルシーだけれどお腹にたまるおかずが完成する。ちくわ、すごいじゃない…!

 

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それ以来、ちょっとしたちくわブームが到来している。いろんな会社の製品を試してみたり、トッピングにバリエーションをつけてみたり。醤油をささっとかけたところにわけぎを切ってちらしたり、練りわさびとほぐし焼き海苔で食べてみたり。コンビニにも売っているので、本当に手軽に手に入る。

ちくわと言ったら、これまでは、おでんに入っているそこまでうれしくもない具のひとつだったり、チーズやキュウリが穴に押し込まれたお弁当の隙間埋め要員だったり、という印象だった。それが、良い方向に裏切られた。

旅先のホテルやらゲストハウスのリビングやらで、夜にひとり、ちくわをぶつ切りにしてお皿に盛って、その日の気分やその場にあるトッピングで工夫した切れ端をひとつひとつゆっくり食べていくのは、ちょっとしたわびしさも手伝って、なんだか良いものであるように思う。

 

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そんなふうにちくわを食べながらふと思うのは、ちくわを食べる様子を表す適切な擬態語/擬音語はなんだろう…?ということだった。ちくわの質感はなんと形容していいのかわからないし (もっちり? しっとり? くにくに?)、噛んでみたところでパリパリ音がするわけでもない。なんともとらえどころがなく、なにか特定の語を当てはめてみても、途端にそれが適切ではないような気がしてくるのだった。

もう一口食べてみたら、うまく形容できるかもしれない、と箸がすすむ。ちくわを食べる音を適切に表せるまでは、このちくわブームは続いてしまうのかもしれない。

 

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